野外イベントの音響システムには、たくさんの大きなスピーカーが必要というイメージがあった。外で音を出すということは音は四方八方に広がって逃げていく、遠くにいる大勢の人たちに音を届けるには巨大なシステムでないと充分に音が拡散しない、という考えだ。 "PRHYTHM" という野外フェスに参加して、その先入観が覆された。
HPの情報によるとイベントでは、真空管アンプとALTEC A7/A5仕様スピーカーが使われるという。A7/A5は「the Voice of the Theatre」といわれるモデルで、主に劇場で使う目的で開発された。A5は1945年、A7は1954年の発売。低出力の真空管アンプしか存在しない時代に大きな音を出すために開発された。
劇場用のPAスピーカーといえども、さすがに野外イベントとなれば数を増やさないと無理なんじゃないかなと思っていたが、実際に会場に行くとたった2台のスピーカーで驚いた。さらにびっくりしたのが、そのシンプルなシステムが素晴らしいサウンドを作り出していたこと。
山の中にある広大な公園で行われたフェスのステージは、池の上に浮かぶ島にあった。ピラミッド型の彫刻作品の両脇にスピーカーが置かれていた。間近で見ると大きなA7/A5スピーカーがこのシチュエーションではとても小さく見える。それでこれだけの音量が出ているのがとにかく凄い。音はとても自然で耳障りな響きが全くない。音が森の中を楽しそうに飛び交っているのが目に見えるようであった。室内ではけっして味わえない、野外ライブならではの開放的な音の気持ち良さを体験した。アコースティックな響きも良いが、電子音楽を野外で聴くことがとても新鮮だった。
こんな機械を作り出した昔のひとは本当にすごい。音響技術の確立していない時期に試行錯誤したからこそ生まれたような気がする。昔のひとの方が、音の本質に向き合っていたのではないか。よい音を作り出すには、情報や技術より、耳であり、体であり、心であり、すなわち「人」が大切だということを痛感した。
(青柳)