図書館で背表紙がふと目にとまった「ひみつの王国 評伝石井桃子」。装丁にはヘンリーダーガーの絵。予感通り、とてもすばらしい本だった。
「ノンちゃん」そしてエッセイや訳書を、若き日から愛読してきた。しかし、本人の人生についてはあまり知らなかった。(自分のプライベートを明かすのを好まなかったみたい。)
この評伝の著者である尾崎さんの綿密な取材とインタビューに基づいた熱意と愛情あふれるこの本を読み、石井桃子さんの歩みに感銘を受けた。
特に、自立して自由な精神で好きな道を生きていくことについて。子ども向けという狭いところ、頭で作られただけのものや理想論で凝り固まってないところにわたしは惹かれてきたのかもしれない。
続いて、なぜか未読だった「幻の朱い実」。
桃子さんが70代後半から80代にかけて執筆されたという自伝的小説であり、尾崎さんがこの評伝を出そうと思ったきっかけとなった作品。
時は大正デモクラシーの雰囲気も残る昭和初期。明子(桃子さんの分身)とその友人蕗子を中心としたおはなし。当時、モダンガールといわれていたんだろうな。
シチュエーションは変えてはいても、こころの動きや会話は本当にあったことだろう。実際にやり取りしたであろう手紙も多く引用されている。大事に仕舞われてきた記憶が真空パックさながら鮮やかなままに、その輝きはきらめいた宝石のよう。
物語後半で、いっきに1980年代に舞台を移す。老いた明子たちが調査することになる当時の蕗子についての謎解き。読後も、しばらく余韻が心に残っている。
この物語のモデルとなった主要人物たちはもうこの世にはいない。101歳まで生きた桃子さんさえも。それでもこうやってその想いや生きた証は、本となって残り続ける。・・・すごいものを読んでしまった。
追記:桃子さんの言葉「本は一生の友だち」。わたしもそう思う!
(my)