高校生のころ、神戸に古着を買いに行くのが好きだった。
買い物よりむしろ三宮・元町の高架下や街に点在する古着屋さんをひとりで徘徊することが何より楽しかった。
中古レコード屋という存在を知ったのもその頃。
好奇心である店に入ってみたら、見たことのない大量のレコードが店内に溢れかえっている。
どこを見たらよいのかさっぱり分からなかったが、バーゲンの箱が床に置いてあるのを発見した。
「ビートルズのレコードが500円で売っている!」
箱を隈無く見てみたら、他のアルバムも発見した。
掘り出し物というよりも国内盤のビートルズはそれくらいが相場のようだった。
中学1年の時に貯めていたお年玉でミニコンポセットを大阪の日本橋で購入した。
スピーカー、アンプ、チューナー、CD、カセットデッキ、イコライザーがセットになった物だ。
ターンテーブルはオプションだったが、フルセットにしたいがために選んだ。
まけてもらったけど、全部で20万円以上したと記憶している。
その頃から一気にCDの世の中になっていった。
一枚もレコードが再生されることなく、そのターンテーブルはコンポの最上段で埃をかぶったままだった。
ジャケットのポップさに惹かれて買って帰ったビートルズの『ヘルプ!』に初めて針を落した。
「ポッ」という針がレコード盤に乗っかる音に続いて、音の塊がスピーカーから飛び出した。
今まで聴いていたサウンドと何かが違った。
高校生の自分には理由はよく分からなかったが、それ以降神戸に行く度にビートルズの中古レコードを買うようになった。
思い返してみれば、それは「音の体温」を感じた瞬間のような気がする。
ノイズも含めたアナログレコードの音、そしてビートルズの60年代サウンドの温かさに取り憑かれたのだ。
寒い冬の日にスピーカーMONOで久しぶりに『ヘルプ!』を聴いてみた。
冒頭の一音を聴いた瞬間、高校生の時体験したあの瞬間が再び生まれた。
自分で作ったスピーカーでこのレコードを聴くことになるなんて、人生何が起こるかわからない。
(青柳)