雨降る日曜日の朝、みそ汁を作りながらいつものように小さなラジオでAM放送を聞いていた。
ベートーベンの『大公トリオ』がかかった。
それもカザルス、コルトー、ティボーの音源だ。
『大公トリオ』を知ったのは、村上春樹の『海辺のカフカ』だった。
小説を読んでいた時は想像するだけで、曲を聴くことはなかった。
曲のことをすっかり忘れてしまったころにレコードを偶然見つけた。
(忘れっぽい僕にとって、レコードは「リマインダー」として機能する。本当にありがたい。)
カザルス、コルトー、ティボー三人による演奏はある種のベールを被っている。
それによってこの世のものとは思えない魔法の音楽となっている。
このベールの正体って何?
1928年録音ゆえの音域の狭さもそのひとつだと思う。
ハイファイでクリアな音だけが「よい音」でないことを教えてくれるレコードだ。
他にもベールの正体があるような気がする。
「品格」のようなものまで身に纏っているのが気になるのだ。
答えはレコードジャケットの天使だけが知っているのかもしれない。
雨音混じりながら聴くAM放送によるローファイ『大公トリオ』。
偶然電波をキャッチしているということもあって、特別な音楽体験となった。
(青柳)