Monday, 1 April 2019

エラールピアノ

先月コンサートでびわ湖ホールを訪れた際、ホール奥のロビーに置かれているグランドピアノが気になった。よく見かけるピアノと佇まいが異なっていた。近づいて見ると、古い物であることはすぐ分かったが、細部を見れば見るほどデザインが新鮮で、モダンな印象さえ受けた。とても美しく思った。

1927年に作られた「エラール」というフランスのメーカーのピアノだと横に置かれていた案内板に書かれていた。2007年から始まったロビーでの展示はどうやら今年3月に終了するらしく、お別れのコンサートシリーズがあるらしい。これは良いタイミングに知ることができた。

最終日の青柳いづみこさんのコンサートに参加した。曲目はフランスの作曲家、クープランとラモーの作品。最初にピアノの音が鳴ったとき、普段コンサートで聴くグランドピアノとは全く違う印象を受けた。控え目な響きだが、一音一音がクリアに聴こえる。解説によると、チェンバロ時代に作曲された曲を現代のピアノで弾くと過剰に装飾的な響きになってしまうこともあるそうだが、エラールだと気持ちよく弾けるそうだ。

現代のグランドピアノはより大きなホールでの演奏を可能にするために、大きく華やかな音にしているのではないだろうか、と想像した。時代のニーズに応じてピアノは変化して来ていることを体験として知ることができた。スピーカーも同じく時代によって変化している。現代に聴くバックロードホーンのサウンドは、僕にとってとても新しい。エラールの味わい深く飾り毛のない音は、スピーカーMONOに通じるものがあると思った。

アンコールでドビュッシーの『月の光』を演奏してくださった。あまりに新鮮なその響きに心を奪われた。ピアノの背後に見える雨模様の琵琶湖の景色とあいまって、時間が止まったような不思議な気持ちになってしまった。

(青柳)