20年以上探していたレコードを先日ついに手に入れることができた。無茶苦茶レアということもないのだが、今まで不思議と縁がなく、レコードショップでお目にかけたことがなかった。
その音源はずっと愛聴している。ロンドンに留学していた時、近所の図書館がそのレコードを所蔵していて、MDにダビングした。返却するときはとても名残惜しかったが、きっとすぐに見つかると楽観的に思っていた。それが簡単に叶わなかったことで、このレコードは僕にとって特別な存在になった。
時代は変遷し、音源はMDからmp3に姿を変え、幾度と無くその音楽を再生してきた。完全に耳に馴染むほど愛聴して来たが、自分の肌の一部になっているような感覚にならないのが、デジタル音源の持つある種の宿命的欠落感なのかもしれない。でもレコードでこれほどの回数聴いていたら、溝が無くなっているかもしれないな。
このレコードを所有している人に出会う度、僕のWANT LISTのトップだと話してきたが、みんなそんなに珍しいの?という感じだった。その度に、いつかきっと自分の手元にやって来ることをずっと夢見てきた。
その念願のレコードを先日ヤフオクで購入した。競うことなくリーズナブルな価格で落札。インターネットは夢を呆気なく叶えてくれた。
届いたレコードをよくクリーニングしてから、ターンテーブルに載せた。溝をこすって生まれる音はやはり、体にとても気持ちいい音だった。空間に浮遊する音をぼーっと聴きながら、夢が叶ってしまうことは、嬉しい反面、淋しさも同時に感じることを知った。
レコードを入手してから、毎朝起きたらすぐに聴いた。再生が終わると、毎回クリーニングして盤を磨いた。中古レコードは、溝についしつこい埃がとれるまで時間がかかることがあるからだ。
ある朝、聴き終えジャケットにレコードを入れようとした時、うっかり手を滑らして床にレコードを落とした。拾って盤を確認すると、くっきりと大きな傷が入っていた。自分のドジさ加減に呆れ、楽観的な僕でもさすがに落ち込んだ。針を落としてみると、音飛びは無かったが、A面数曲に渡って、いくら磨いても消えない「プツッ」という音が無数に刻印されていた。新しく自己主張の激しい演奏者を加えたように。
こうして、念願のレコードに悲しい記憶が刻まれてしまった。そのレコードはリプレス盤だったので、いつかはオリジナル盤を手に入れるという新しい夢が代わりにできた。
夢は夢のまま、簡単に叶わない方が良いのかもしれない、と自分を慰めることにした。次にこのレコードを手に入れるまでは、ノイズの乗ったこの音と付き合って行こうと思う。レコードの道は果てしない・・・
(青柳)